20160223読売新聞 文芸月評 より

 

今を生きる人の座標軸

震災5年 死の間際の問い

 

作家とは普段、物事を深く考える余裕がない多くの人に寄り添って、世の中と向き合い、言葉を記す人間なのかもしれない。堀江俊之さん(52)の『その姿の消し方』(新潮社]に触れ、今月は改めてそう感じさせられた。2009年から5年半をかけて書き続けられた13作を収めた連作短編集は、静かで重い。

(中略)

福岡県に住む村田喜代子さん(70]は、震災の頃に子宮がんの疑いが判明し、鹿児島の病院で放射線治療を受けた。個人と社会の危機を2011年に同時に味わった。長編『焼野まで』(朝日新聞出版)は、今まで短編などで書いたその体験を踏まえ、創作化してより本格的に向き合った。

女性の主人公が治療を受ける病院のある街には、火山がある。灰を降らせ、火を噴くその描写が網膜に残る。火山や津波をはじめ荒ぶる地球に翻弄され、時に病に侵されながら、人間は寄る辺ない生を送るよう運命づけられている。その存在の悲しみと愛おしさが、熟達の筆からにじむ。

(後略)                    (文化部 待田晋哉)

inserted by FC2 system