20150224読売新聞より

文芸月評   戦後70年と向き合う

         老いて脈打つ執筆の衝迫

 

(前略)

村田喜代子さん(69)の『八幡炎炎記』(平凡社)は、製鉄所のある北九州・八幡で育った少女を主人公とした自伝的小説の第1部だ。終戦の年に複雑な事情を抱えて生まれた彼女の成長と、親戚の女癖の悪い仕立屋の男を巡る出来事などが描かれる。

溶鉱炉の火が燃え、有り余るほど子どもがいた終戦直後の幻惑的な空気を描くのが主眼のようだ。その世界観を本作の冒頭で深めるのが、不義の末に駆け落ちしたため、広島の原爆を逃れた仕立屋夫婦の挿話だ。戦後の多くの生は、ある偶然性の上に築かれた事実を思い起こさせた。

今年は、戦後70年を迎える。圧倒的な死、暴力や飢えの恐怖を、単なる衝撃的な題材とせず、文学の言葉にできるのか。果敢に挑む若い世代のほか、戦中、戦後世代もそれぞれに向き合っていた。

(後略)                  (文化部 待田晋哉)

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