20131029読売新聞より

文芸月評

(前略)

ベテランでは、今月連載を終えた村田喜代子さん(68)の「屋根屋」(群像、昨年8月号〜)の奇想に息をのんだ。家の雨漏りの修理に来た屋根職人が、中年の主婦と話をする。妻に先立たれた彼は精神の調子を崩し、医者の勧めで夢日記を10年つけていた。 

その結果、自在に夢を見られるようになったと語る彼は、主婦の夢の中で一緒に旅へ出ようと誘う。ついに二人はフランスのシャルトル大聖堂の屋根を黒鳥になって眺めた。別の寝室に眠る男女が同じ空を飛ぶ夢を見るとは、単に体を交わすより色っぽい。官能の正弦曲線に触れた気がした。

(後略)

(文化部 待田晋哉)

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