20121209毎日新聞より

 

2012年「この3冊」上

 

池内紀(独文学者)

@     森で過ごして学んだ101のこと 

本山賢司著(東京書籍・1,680円)

A     偏愛ムラタ美術館━発掘編 

村田喜代子著(平凡社・2100円)

B     私はホロコーストを見た 上・下

    ヤン・カルスキチョ、吉田恒雄訳(白水社・各2940円)

 

トシとともに見方、考え方が怠惰になる。そこで揺さぶりをかけ、爽快な「目ざめ」に導いてくれた本たちから。@には自然の生理をわがものにした人の知恵と工夫がつまっている。Kenjiのイラストがどっさりついているのは、当人がすぐ忘れるから「手順をスケッチして、いつでも再現出来る」ためだという。知恵者はいつも謙虚だ。A作家村田喜代子にとって絵画は「一回きりの網膜の事件」であって、遭遇して、あっけにとられ、とまどい、惹かれ、考えた。型破りの才能がカミソリのように鋭い感性で捉えてある。Bは「今週の本棚」でとりあげた。第二次大戦勃発と共に運命的な使命を帯びて、歴史の現場におっぽり出されたポーランド青年の貴重な証言。大国の利害の中で握りつぶされたが、真実を知るのに遅すぎることはないのである。

 

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