20120327讀賣新聞より

 

文芸月評

(前略)

震災を背景に置いた作品では、「文学界」昨年2月号から今月号まで断続的に掲載した村田喜代子氏(66)の短編シリーズが心に残った。全6本のうち、後半の4本が震災後の世界を扱っている。

「原子海岸:」(2月号)は、静かで重い作品だ。がんで放射線治療を受けた女性が、一泊二日の患者らの交流行事に参加する。大型バスでそば屋や神社を回り、海辺のホテルに行く行事の途中、彼女は医師に、放射線治療に対するある素朴で深刻な質問をした。

原発事故で人々を苦しめる放射線により、自らの病巣を焼く居心地の悪さ。病室で治療を受ける間もなかった津波の犠牲者への後ろめたさ。震災は病人を単なる病人でいさせない事態を生んだ。

「文芸春秋」3月臨時増刊号によれば、村田氏は震災後に子宮がんが判明し、手術と放射線治療を受けている。個人と社会の災厄が重なった経験を文学的に昇華してみせた。

(後略)

                        (文化部 待田晋哉)

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