20111220讀賣新聞夕刊より

回顧2011 文芸

 

東日本大震災 作家たちも自問自答

 

文学に何ができるのか━。東日本大震災という未曾有の国難に見舞われ、旧来の価値観が大きく揺らいだ今年、被災地から遠く離れた九州・山口の作家も、自問自答したに違いない。

福岡県在住の村田喜代子(66)は、震災を日常生活のレベルに引き寄せて描いた短編連作を、文芸誌に発表した。原発事故と時を同じくして乳がんを患った妻の放射線治療を、夫の目線でつづった「光線」(「文学界」10月号)、富山・魚津の蜃気楼の出現を知らせるサイレン音から、空襲警報、そして大津波の光景へと連想を広げた「海のサイレン」(同12月号)。誰にとっても震災の傷と無縁では生きられないことを得心させられる。

震災後、神奈川県から熊本市に移住した劇作家、岡田利規(38)が、「問題の解決」(「群像」12月号)で描いたのは、震災がもたらした「違和」であった。放射能汚染の恐怖から逃れるため、東京から熊本に引っ越した妊婦が主人公。震災で生じた夫婦間の微妙なズレが、現実感を持って迫ってくる。

また、被爆地・長崎の青来有一(53)は、論考「人間は放射線をどう恐れてきたか」(「文学界」6月号)で反応。ヒロシマ、ナガサキ、そしてフクシマへと連なる被爆の恐怖を、<怪物のほんとうの輪郭を人々はいまだにはっきりと見ることはできないままだ>と記した。

福岡県在住の三崎亜紀(41)の短編集『海に沈んだ町』(朝日新聞出版)の表題作は震災前に書かれながら、故郷が突然海に沈んでしまった夫婦の喪失感を描き、あまりにも黙示的あった。

 

文学賞 期待の2人

 

文学賞では、1月の芥川賞で、山口県の田中慎弥(39)「第三紀層の魚」(「すばる」2010年12月号)、7月の直木賞で福岡県の葉室麟(60)「濃い時雨」(文藝春秋)が候補になった。その後も、田中は「共食い」(「スバル」10月号)などの力作を発表、葉室も4冊出版する充実ぶりで、今後に期待させた。

物故者には、読売西部歌壇選者で短歌結社「牙」主宰の石田比呂志(熊本県)、H氏賞詩人の鍋島幹夫(福岡県)らがいる。

(石田和孝、文中敬称略)

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