20110928毎日新聞夕刊より

凡庸な「物語」を脱して 正しさを疑いつつ生きる

田中和生(文芸評論家)

 

(前略)

連作の中の一編だが、村田喜代子の短編「光線」(『文学界』)にも惹かれた。老年にさしかかって妻が癌に侵され、その治療につきそう男の心情を乾いた三人称で描いているが、そこに三.一一の日付が自然に流し込まれていることに驚かされる。それは放射線治療の日々と、原発事故以降の日本の日常が、危機的なものであるという意味で全く同質のものであるということを教えてくれる。

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