20110717毎日新聞 東京朝刊より

 

今週の本棚・新刊:『この世ランドの眺め』=村田喜代子・著

 (弦書房・1890円)

 

 絵画、屋根、胎児、天空など(ときには恐怖さえ感じつつも)引きつけられて止(や)まないものごとを切り口に、著者が見る世の中を書き留めたエッセー集。

 

 生活の細部から周囲の風景まで、ひとたび心をとらえられると、それらをじっと見つめる姿が目に浮かぶ。ハワイのコナ・コーヒーはいつしか火山のマグマとなり、瓶詰めのらっきょうはムンクの「叫び」になる。読んでいると、“ここ”にしっかり足をつけているようで、いつの間にか“あちら”へ行ってしまう。

 

 特別な人しか行けない場所へ出掛けてきた人の土産話のようなエッセーがたくさん。記憶の断片にひっかかっているみたいに、どこかもの悲しく懐かしい所収のモノクロの写真も胸に残る。(咲)

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