20110626讀賣新聞

記者が選ぶ この世ランドの眺め 村田喜代子著

 

昨年の野間文芸賞を受賞するなど精力的な執筆を続ける作家のエッセイ集。北九州市の鉄都・八幡で育った幼少期の思い出や、作品の余話など55編を収める。

天にそびえるような製鉄所の煙突群が原風景だという。<高い煙突群の吐き出す煙が、ボウボウと崩れかけた竜のような姿で天の底へ昇って行く。夕方は空が恐ろしいほど深くなる>

棄老伝説が題材で映画化もされた小説『蕨野行』を書いた後には、何年も死へ向かう秒読みの音のようなものが耳から離れなかった。また、方向音痴で、しばしば道に迷ってしまう。そんな時、自分が地図から抜け落ちるスリリングな感覚に酔いしれるという。

「村田ワールド」と呼ばれる独特の世界観が育まれた背景が、じんわり伝わってくる。(弦書房、1800円)

(臼)

 

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