20110211産経新聞より

野間文芸賞受賞の村田喜代子さん 毎晩飲むのが創作の鍵?

 「連載を抱えていて、1年の抱負を言う暇もないくらいで…」

 文芸誌「新潮」と「文学界」の2月号で同時に連作短編をスタートさせたばかり。昨年、第63回野間文芸賞(野間文化財団主催)を受賞した作家、村田喜代子さん(65)は、年明けから多忙な日々を送っている。

 野間文芸賞受賞作『故郷のわが家』(新潮社)は、母親を亡くし生家を処分するために故郷に戻った65歳の女性の5カ月をつづる連作短編集。海外旅行で出会った孤独な男性、急死した級友のこと…。古家の荷物を片づけながら、夢と現実のあわいに立つ主人公の様子を描き、「人生の諸相を、おおらかなユーモアと世界的なスケール感で描いている」(選考委員の佐伯一麦さん)と絶賛された。

 これまでは小説を「作る」意識が強かったが、この作品は実人生の感慨をそのまま小説の中に投入するように書いたという。「半分くらい私小説的な考えで書いた作品で、特別な思いがある」と喜ぶ。

 昨年12月に東京都内で行われた贈呈式では、「お酒を飲んで酔いが回ると、年のせいか悲しいことがいろいろ浮かぶ。1つ2つと数えていたら5つになり、編集者から『小説にしませんか?』と言われた」と執筆の裏話を披露した。「飲むと(作品が)たくさんできる。これからも毎晩飲んで…」とも。言葉の端々に顔を出すユーモアには、聞く人の気持ちをほぐす不思議な魅力がある。

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