読売新聞2007428日より

 

60歳を過ぎ作家の自覚

小説家 村田喜代子さん 62

 

電話で受賞の知らせを受けた時、いたずらかと思って、「考えさせてください」と答えたという。「作品も少ないし、年齢的にもまだ早そうだし・・・・・・」。

1987年に「鍋の中」で芥川賞を受賞してから20年。「白い山」(女流文学賞)、「望潮」(川端康成文学賞)、「龍秘御天歌」(芸術選奨文部大臣賞)など業績は輝かしいのに、謙虚な人である。

以前は、「うそばっかり書いている小説家の仕事は虚業」と思っていた。書きたい時にだけ書く、といったどこかアマチュア的な気分が抜けたのは、60歳をすげてから。「作家としての自覚ができたということでしょうか。言葉みたいなはかないもので、この世のこと、人間のこと、人生のことを探ることは、決してうそじゃないんだ、と思えるようになったんです」

文芸誌「新潮」の6月号から隔月で、「故郷のわが家」という通しタイトルの連作短編を発表する。現代人にとって望郷とは何か、を考え直してみたいという。体の衰えを感じはじめて、身体に興味がわいてきた。「望郷と身体論は一つに収れんされていくでしょう。最後には」

福岡県中間市在住。「九州の端っこで、のんびりと書いてきた私に目を留めていただいた。相当な励みになります」。若い時にもらった賞とは違った意味合いがあることを強調し、「ありがたい」を繰り返した。

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